【アーユルヴェーダとファスティング~ファスティングの最前線】
日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり
近年人気のファスティングですが、その歴史を辿ると、やはり辿り着くのはアーユルヴェーダの世界です。
アーユルヴェーダやヨガなどのインド哲学では「0(ゼロ)思想」というのが根本にあります。現在、世界中で「健康な身体を手に入れるにはデトックス」などと言われるようになりましたが、このデトックスというのもやはりインド哲学においては重要な思想になります。
「0」とう数字がインドで発見されたというのも、この思想が根本にあるからです。
「0」とは、つまり「空(から・くう)」ということですから、何か、頭の中が忙しくなっている時には、ヨガ修行や瞑想によって、心(=脳)を空(から)にする。(ヨガ行者にとっては、空は宇宙、つまり神であると考えられており、空に近づくということは神と繋がるということで、ヨガ修行の最終目的となっています。)また、体調がすぐれない時には、嘔吐法や寫下法、発汗法など、アーユルヴェーダの治療法にあるパンチャカルマ(5つの治療法)によって体内から毒や未消化物(消化しきれなかったもの)を排泄、デトックスをし、体内を一度、空(から)にするというのが健康をつくる基本と考えられています。 つまり、一旦心身を0に戻すということです。
これが、ファスティングの原点と言えます。
アーユルヴェーダは大陸を渡り様々な国へ伝わり、独自の進化を遂げていきました。日本では、中国を経由し渡ってきて漢方が誕生しました。
欧米などでは、近年ヨガやアーユルヴェーダなど、東洋医学が民間療法として注目を集め、ファスティングも健康法、ダイエットツールとしてブームとなりました。
さて、今回はファスティングがどのような方法で行われた場合に効果を発揮するのか、研究を紹介したいと思います。
肥満や高血圧、高脂血症などの症状がないにも関わらず単に「食事を抜く」というのは、低血糖を招いたり、無理なダイエットからリバウンドを招いたりと危険を伴いですので、正しく理解し、日ごろのケア、アドバイスに役立てて頂ければと思います。
■ポイントはサーチュイン遺伝子へのスイッチ!
「サーチュイン遺伝子」とは、マサチューセッツ工科大のレオナルド・ガランテ教授が発見したいわゆる“飢餓遺伝子”です。
サーチュイン遺伝子が活性化すると、細胞内でエネルギー源を作り出す小器官「ミトコンドリア」が増え、細胞内の異常なたんぱく質や古くなったミトコンドリアが除去されて、新しく生まれ変わる「オートファジー(自食作用)」という働きが起こります。
更に、細胞を傷つける活性酸素の除去、細胞の修復、脂肪の燃焼、シミやシワの防止、動脈硬化や糖尿病の予防、認知症の予防といったさまざまな影響がもたらされることが分かっています。
つまり、「細胞の若返り」をするということが分かったのです。
こういったことから、現在では「長寿遺伝子」などとも呼ばれています。
さて、ではこの遺伝子はどのようにして活性化されるのでしょうか。
①ひとつは、ウォーキングや軽めの筋トレなどの適度な運動です。
日ごろ、サロンやレッスンで、同じ年齢や年代の方を比較すると、運動不足の方に比べ、定期的な適度な運動や筋トレをしている方は、肌のきめ細かさや肌の張り、シミや小じわなど、その差は歴然です。特に、30代後半以降の方ははっきりと差が出てくる印象です。
②栄養面で言うと、ポリフェノールの一種レスベラトールも、サーチュイン遺伝子のスイッチを入れる栄養素ということが分かり注目されていますが、1日の必要摂取量を達成するには赤ワインを100本も飲まなければなりません苦笑。こちらはサプリメントなどで補った方が良さそうです。
③そして、一番は、カロリー制限です。
以前、あるドキュメンタリー番組で、海外の肥満の患者の治療施設で、1日置きにファスティングをするとサーチュイン遺伝子が活性化したという報道がありました。
その方法は、1日中、好きな物を好きなだけ食べる。翌日は、1日何も食べずにファスティングするという方法です。施設の患者さんたちは明らかな減量と数値改善をしていきましたが、入院施設で管理してくれる環境がない限り、この方法は習慣化しにくく、一般の方が健康管理をする方法としてはやや難しい印象です。
その他には、1日の最後の食事から、翌日の1食目まで16時間開けてから食事をとる“プチファスティング”ダイエットもブームになりましたが、これも、この施設での研究の応用編といった形です。
ちなみに、私も以前から、最後の食事から最低でも12時間は開けてから一食目をとりましょうというお話はよくするのですが、これは、そもそもアーユルヴェーダの考えのひとつで、未消化物(≒老廃物)をつくりださないためにも、栄養バランスのとれた食事をとったら、ちょこちょこ食いなどはせずに、胃腸にしっかり消化吸収をさせたら、胃腸を休ませ、朝は排泄の時間というカラダのサイクルをしっかり作ることが、老廃物をため込まないポイント、つまり、毒素だけでなく、余計な脂肪をカラダにため込まないポイントになるのです。
話が少し逸れてしまいましたが、現在も世界中でサーチュイン遺伝子の研究が進められている中、日本の金沢大学の古家大祐(こやだいすけ)教授が、25%のカロリー制限と運動が、サーチュイン遺伝子にスイッチを入れるということを発表されました。
食事をすると血糖値上昇を抑えるためにインスリンが分泌されますが、インスリンが働くと長寿遺伝子やオートファジーの作用がストップしてしまうというのです。
つまり、小腹がすいたときの間食は、サーチュイン遺伝子のスイッチを妨げる行為ということになります。特に甘い飲み物、洋菓子、アメ、果物などに含まれる単純糖質は、インスリンの急激な分泌を促しますので注意が必要です。
食間が長い睡眠中は最も長寿遺伝子が働きやすい時間帯ですので、夜食は毒ということになりますね。
栄養学の世界でも、夜間の食事摂取はカラダにため込みやすいということが分かっていますし、寝つきや睡眠の質の低下にもつながることが分かっていますので、やはり、夜の飲食は注意が必要です。
東洋医学、現代医学、どの分野から見ても、夜は余計なものはとらずに、胃腸を休ませるのが得策ですので、夜のプチファスティングが、健康習慣をつくるには適していると言えるでしょう。