隔離状態でのITの活用方法
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 野田啓一
東京都の新型コロナウィルス感染者数がピークに達する2020年3月初旬、新型コロナウイルスに感染、肺炎を起こして二週間の入院となりました。感染直後の症状は軽く、自宅療養をしていましたが、感染から丁度一週間を迎える頃に息苦しさを覚え、肺炎が広がっていたことが発覚。幸いにも搬送された病院でベッドの空がありそのまま入院となりました。
自身の経験を踏まえ、隔離された状態の中、ITを活用してどの程度のことができるか体験を元にお伝えします。
病院に救急搬送された時は、意識朦朧として呼吸もまともにできずもう死ぬかもしれないとやや諦めの境地で、実際CT検査の結果、あと少し遅かったら危なかったですよと言われる状況でした。意識レベルが低下して何もすることができない状況から、少し意識レベル回復した頃、まずは自身の体に何が起きているか知りたい欲求が生まれます。
【はじめのIT活用】
入院中のベッドに横たわり、最初のIT活用は、新型コロナウイルスで自身がどういう状況にあるか、スマホを片手に持っての検索でした。
「SpO2」という言葉を何度か聞いており自身の体にもそのセンサーが装着されていることから検索キーワードに入力。SpO2とは酸素飽和度のことで、正常値は97%から100%で、90%以下は呼吸不全とされます。
自身の測定値は90%を切っており呼吸不全の状態と認識、肺炎が進行していることが推測できます。その後も点滴や出される薬剤の情報を次々に検索し病気の状況を次々に把握。 病院のIT機器としては、体に心電図と酸素飽和度のモニターが装着され、看護ステーションへリアルタイムでモニタリング状況が転送されています。酸素飽和度が低下するたびに看護師が駆け付け、呼吸できてないのでしっかり呼吸するようにと促されます。眠っているうちに呼吸不全で死亡するかもしれない状況において、ITでしっかりモニタリングしてアラームを出せるのはまさに命を支える生命線のITと言えます。
【2番目のIT活用】
次に、ネットミーティングでした。 以前より約束していた新規顧客との初のオンライン面談を実施。面談が始まるまで入院を知らせていなかったため、初体面で入院中のベッド上から寝間着で酸素吸入しながら登場するのにはとても驚いていた様子でしたが、心配されながらも約1時間の談笑にて終了。 このネットミーティングは、スマホで実施。通常パソコンでしているネットミーティングに比べ資料の共有ができないなど不便なこともありましたが急遽並行してオンラインチャットで資料を共有し無事に進行できました。た。
ネットミーティング以外に、ITを活用してどの程度の仕事ができたか一覧でお伝えします。
●パワ-ポイントで企画書作成
●クラウドソーシングで外部のデザイナーへロゴをコンペで発注
● EUの企業とSkypeでシステム連携プロジェクトの進行管理
●米国のクラウドサーバー構築
● 社内のエンジニアと、SkypeとLine電話で情報共有
●電子証明書の取得にあたりライブチャットで問題の相談と解決
● 人事労務クラウドで給与管理
●会計クラウドで請求書管理
● ネットバンキングで銀行振込手続き
日々の業務のほとんどのことがパソコンとネットワークで実現できました。 ここで使用したネットワークは、デザリングというスマホのネットワークをパソコンと共有したもので5Gの広帯域で快適に動作します。唯一大変なのは顔認証。消灯された中、酸素吸入しながらのスマホの顔認証はなかなか面倒です。
【3番目のIT活用】
スマホで音楽配信を視聴は入院中のストレス緩和になりました。入院中は、HCU(高度医療室)で治療しているため周囲のベッドから雑音が入ります。
「おーーーーーい」
「おーーーーーーーーーい」
と大きな声で呼び続ける続けるおじいさん。
その隣で幻覚を見ているおばあさんは、
「〇〇〇病院…」
「〇〇〇病院…」
「〇〇〇病院…」
「お願いー」
「あつこー」
「助けてー」
と昼夜を問わず数時間も叫んでおられ、大変不安にあられるのは承知なのですが、正直なところ、かなりのストレスを感じました。これにはスマホで視聴できるSpotifyやYouTubeアプリの配信が役立ちました。 視聴にはBluetoothというワイヤレスのイヤホンが活躍。点滴、心電図、SpO2モニターおよび酸素吸入といった管や線が絡む中、ワイヤレスは余計な配線がないのでとても便利でした。利。
【4番目のIT活用】
ニュース閲覧です。 入院したのはロシアがウクライナに侵攻したタイミングでした。 関連するニュース情報は、テレビや新聞等のマスメディアに一切触れることなく情報はすべてネットから入手となります。本当に起きていることだとは思うものの何をもって信用できるか。マスメディアなら、その情報が正しいかの裏付けによって事実確認することもできるでしょうが、一般人ではそういったファクトチェックは難しく、ファクトチェックに代えて以下のプロセスで信用しました。。
①情報量。多くのニュースサイトで取り上げられ情報量の多さから確からしいと判断。
② 情報の裏付け。あるサイトに記載されている情報が他のサイトでも掲載されている。
③時系列情報。過去から現在へ情報が時系列に整合性がある。
信用の軸がない状況から信用を生み出すには、豊富な情報量、複数ソース、時系列な整合性といったことから信用の軸を作り出す試みをします。自身が隔離されアクセス可能な情報が限定された状況において、これらのプロセスにより情報を信用していると理解できます。言い換えると、多くの情報を提供すると人は信用しやすく、複数のサイトから、時系列に情報提供するとさらに信用度は上がっていきます。今回のニュースでは第三者のコメントや評価をもって信用することはありませんでした。病院情報など蓄積された情報のデータベースではコメントや評価も重要とされますが、ニュースについては評価よりも情報ソース自体が大事なようです。
【5番目のIT活用】
入院中にお世話してくれた友人へのお礼と快気祝いを兼ねて会食を計画、スマホでイタリアンレストランの予約です。難なく予約完了と思ったところ、予約したレストランから電話がありコロナでお店を2週間ほど閉めることになったので申し訳ないが予約はキャンセルさせていただくとの連絡。コロナの大変さは身に染みているので同情しましたが、気を取り直して新たなイタリアンレストランをスマホで無事予約完了。 もちろん、感染症対策がしっかり強化されている、広々とした換気空間の良いレストランです。 「 退院してイタリアンだ!」といういう気持ちが気持ちを前向きにしてくれ、更に免疫力を高めてくれたように感じます。
日頃より対策をしっかりしていても、市中感染が広がる中でどうしても防げないシーンはどなたにもあり得ることと感じます。
もしもの時に、孤独に陥らないためにも、更に、精神衛生を健康に保つためにもご参考にして頂ければと思います。