媚薬の歴史
日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり
「媚薬」と聞くと、"性的興奮を促す薬"、"惚れ薬"というイメージでしょうか。
「好意のある相手を意のままに、、、」「嫌ってほどモテてみたい!」というのは皆さん一度は思い描いたことがあるのではないでしょうか微笑。
人間の恋愛感というのは、世代を追って変わっていっているようにも感じますが、そもそも生殖行為をする地球上の生き物は「モテるため」に日々努力していると言っても過言ではありません。そういう意味では、モテ方のコンテンツに変化はあっても、根本的なところは何千年も変わっていないように感じます。
日々勤しむダイエット、美肌づくり、美容整形やエステでのアンチエイジング、それらは美しくなるためのものなのですが、ではなぜ"美しくいる必要"があるのでしょうか。
女性はなぜくびれを作らなければならないのでしょうか。男性はなぜ胸筋を鍛え、二の腕を隆々に引き締めなければならないのでしょうか。
「その方が印象がいいから」 もちろんそうです。
ではなぜ、そのような容姿が印象良く感じる様に私たちの脳はできているのでしょうか。
男女関係なく、肌の綺麗な人は免疫力が高い証拠です。筋トレなどの運動や、質の良い食事によりバクテリアに負けない肌の善玉菌を育て、筋肉により血液の流れが促され、体温が上がります。このような身体はまぎれもなく免疫力が高くなり、"遺伝子選抜"に有利に働くようになります。まと、くびれのある女性は、くびれのない女性に比べて受胎率が高いことも知られていますので、女性のくびれもまた、"遺伝子選抜"に有利に働くことになります。
つまり、私たちは日々"異性にモテる為"に、無意識に"美"を追求しており、今私たちが「美しい」と感じるものは、「強い遺伝子」なのです。「強い遺伝子」だとうことを証明する筋肉やくびれ、肌を、美しいと感じる様に脳がつくられているのです。
「モテる」というのは、より良い遺伝子を残すチャンスが多くあるということです。
より良い遺伝子を選択する権利を得る為に、私たちは無意識にインプットされた遺伝子に翻弄されているとも言えますね。
しかし、「そんな努力せずモテたら最高なのに!」と思うのも人間。「惚れ薬でもあればなぁ」古代からそのように考える人たちは沢山おりました。また、それらを研究開発する医者や、金に目がくらんだ悪徳商人が続々と偽媚薬を売りつけたという記録もあります。
今回は、時代を超えて魅了する「媚薬の歴史」を紹介したいと思います。
■江戸時代の媚薬
漢方でいうと、オットセイの性器を粉末にしたものが当時のバイアグラの様に使われていました。
潤滑剤としては、山芋をすって使用していたというなんとも聞いているだけで痒くなるような記述もあります。
"惚れ薬"として知られているのは、「イモリの黒焼き」ですね。これはジブリ映画の「千と千尋」にも登場しています。男の大カエルがイモリの黒焼きを目の前にした瞬間、「イモリの黒焼きっ!」と言って、ついさっきまで文句を言っていた相手がイモリの黒焼きを持っていることを知った途端に、「くれっ!くれっ!」と言ってしがみつくシーンは印象的でした。宮崎駿監督の"匂わせ演出"はファンの間ではもう有名な話ですね(笑)。
これは、焼いたイモリを粉末状にして好意を寄せている人にふりかけると、その人が好きになってくれるというもの。落語の題材にもなっています。
■古代ローマ時代の媚薬は絶滅植物シルフィウム
医学書としての媚薬の記述で最も古いものとされるのが、古代ローマ時代に人気のあったシルフィウムの記録です。
シルフィウムとは、現存する植物フェンネルに似た植物だったのではないかと研究がされいてる絶滅植物です。シルフィウムは、古代ローマ時代では金と同等に取引されるほど希少な植物で、「万能薬」として人気がありました。
記録では、シルフィウムは咳、喉の痛み、消化不良、イボ、ヘビに噛まれたり、かんしゃくの発作にも効くとされ、シルフィウムのエキスは、催淫と避妊の両方に効果がある「完璧な媚薬」として、とても価値のある植物でした。
古代ローマ時代の婦人科医ソラノスは、ヒヨコマメほどの量のシルフィウムを摂取すると、"堕胎"すると記録しています。他には、シルフィウムの汁に浸した羊毛束にして膣に挿入する避妊方法も記録に残しています。これらはまさに世界初の効果的な避妊法の記録とされています。
■古代エジプト時代を魅了したクレオパトラの秘密は媚薬にあり!?
17世紀のフランス哲学者のブレーズ・パスカルの記述にある「クレオパトラの花がもう少し低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」という言葉は有名ですね。
また、最近の研究では、クレオパトラは、言うほど美人と言えるまででもなかったなどとも言われています。古代エジプト後期に政治も司り、国を引っ張った女帝クレオパトラは、なぜ「絶世の美女」として世界に語り継がれるのでしょうか。
頭の良さ、人柄などもあったと思いますが、エジプト人曰く、それは”クレオパトラが愛用していた香油”にあると言います。
古代エジプトや古代インドにおいて、「毎日水でカラダを清め、香油で身を清める」という記録があります。インドの性愛書、カーマ・スートラにも、香油で身を清めることが“モテる”為の礼儀としてあるべき習慣と記録されているくらいです。
先日エジプトを訪れた際、クレオパトラが愛用していたという香油を再現したものを仕入れてきたのですが、なんともやさしい甘い香りなのです。いわゆる「綺麗なお姉さんの香り」といった感じでしょうか。
配合されていた精油は蓮、パピルス、ダブルジャスミン、ブラック水仙、バニラの5種類です。特に、蓮とパピルスは、エジプト人のアイデンティティも深く関係する植物で、上エジプトと下エジプトのシンボルにもなっています。
香りというのは脳へ鋭く刺激するものですので、香り一つで人の印象も変わってくるほどです。また、香りは記憶を呼び起こしたり、気分が高揚したり、これらは誰もが経験していることです。いわゆる"フェロモン"も香りに関係していると言われています。
もちろんクレオパトラだけでなく、40人もの奥さんがいたことで知られる古代の色男、ラムセス2世の香油もありました。こちらは、マカのようないわゆる男性のオーデコロンにあるような香りでした。
臭いと感じる体臭は、バクテリアに負けるカラダ、つまり「弱いDNA」と私たちは無意識に感じ取り、自分に寄せ付けないように「嫌だ」と脳が判断しますが、それと逆に、「いい香り」というのは「強い免疫力」と脳が判断し、良い香りの人へ寄っていく、気分が高揚して子孫を残そうとするという方に向かっていきます。
つまり、香りは媚薬であり、古代人から人の性質というのは変わらないとも言えますね。
是非今日から、香りも生活に取り入れては如何でしょうか。
”いい香り”は少子化対策にも貢献できるかもしれませんね微笑。