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スラム〜心の支えの共存共栄の姿


スラム〜心の支えの共存共栄の姿

                 日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり

先日マニラに1週間滞在してきました。

成田から約5時間半でマニラ国際空港に到着します。

太平洋上空を飛行し、高度を落としてフィリピンの島々を眼下にすると、

広大な緑の平野が広がっていました。

運河に沿って両脇に集落が連なっており、更にその運河から灌漑が広がり、この広大な田畑に潤いをもたらせている。

上空から見下ろすその姿は、自然と人間の共存のアートの様に感じました。

そして、ふと遠くに目をやると、遠くには高層ビル群。
徐々に高層ビル群に近づいていくと、ドバイのような近代的なビルが立ち並びます。
そして、その一つ手前には、狭い水場にギューギューにひしめく、さびた歪な屋根。
水場に生活するスラム街です。

マニラ空港着陸30分前には、すでにその異様なまでに色濃いコントラストに驚かされます。

滞在はマニラ湾のすぐ目の前。
近代化が進むマカティ市の隣に位置するマニラも、すでに都市化が進んでおり、大型ショッピングモール、そこに隣接する巨大高級マンション群。その近辺には続々と建設中のビルも随分目に入ります。

大通りもインフラが整備されており、片側4車線のバイパスは、日本メーカーの車、アメリカ車が多く朝から晩までとてつもない交通量です。
道路沿いには5つ星のホテルが立ち並び、おしゃれなスタバもあります。

さて、その大通りの一本隣には、震度3の地震でも崩れてしまいそうな二階建てのボロ屋が並び、洗濯物は道にはみ出し、子供たちは裸足で遊んでいます。

路地には20m間隔に人々が生活をしており、高層マンションの足元には、幼子を抱く若い女性が気持ちばかりの布で目隠しされた街路樹の陰で生活していました。

夕方には道路沿いで小枝やごみで火を焚き、飯盒でお米を炊く姿。幼い子どもの親たちは、子どもの服を脱がせて頭から水をかけ流し、身体をきれいに洗う。脱いだ服は洗面器で手洗いし、木の枝や公園のフェンスに干す。
路地を歩いていると、なんとも人々の生活に触れることができます。

特に目立ったのが女性の路上生活者です。
小さな子どもを抱く姿が印象的でした。

都市開発の際、日本もそうであった様に、観光資源確保、景観とイメージアップの為に、シェルターを作る、立ち退きをするものですが、特に子どものいる家族は学校はどうなっているかなど、気になるところが多くありました。

「マニラのホームレス〜仕事、貧困、家族〜青木秀男」
http://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/687_04.pdf

こちらの研究によりますと、路上生活で育った子どもたちは強力な支援がない限り学校へは行けず、路上生活のまま、また通学もないまま大人になり、そこでパートナーを得て子どもを設ける。この繰り返しで路上生活者がなくなる、脱するというのが難しいといいます。

とはいえ、温暖な気候な国ですから、北欧のように、家がないと凍死するということもありません。それに、それぞれの路上生活者のコミュニティがあるようで、昼間には笑い声も随分聞こえてきました。

これまで危険地帯といわれる国も含めて30ケ国以上歩いてきましたが、マニラのこのエリアは、「ヤバそう」と取り肌が立つような雰囲気でもなく、特に危ないこともありませんでした。(とはいえ、安心して歩けるほどでもありません。危険度5のうち2.5位でしょうか)

路上生活の方々を眺めていてもう一つ目に入ったのが、そこに寄り添う犬たちの姿でした。

海街ではよく見かけるのは猫のイメージですが、猫たちはみんなやせ細り小さく数も少ない印象でした。猫に対して、路上を自由に歩く犬たちは皆毛艶よく、中肉中背で健康的な印象です。トルコやインド、エジプトにいる犬たちと同じように、昭和の時代に時々見かけた雑種犬ですが、路上生活者にそっと寄り添い、首輪をつけた犬も多く見かけました。もちろんリードはついていませんので、自由に歩いています。

よほど人の愛情を受けているのか、人間に警戒する様子も、怖がり吠える様子もありません。

一人で暮らす老婆に丸くなり背中を寄せる姿、人間の子どもと並んで道路わきに座る姿、飯盒でご飯を炊く主人を上目遣いで見守る姿・・・。 
なんとも微笑ましくもある光景でした。

とある夜、レストランを後にすると、一匹の犬とすれ違いました。

少し歩き進めると、先ほどすれ違った犬がさりげなくついてくるのです。程よく距離を取りながら、チラチラと上目遣いでこちらに目をやり、少し通り過ぎては振り返る。

明らかに、何か食べ物を恵んでくれというのがすぐに読んで取れました。

一緒にいたひとりが、胸のポケットからレストランからもらった小さな小分けされた焼き菓子を取り出し、「これ犬に毒ではないのか」というので、問題ないのであげて欲しいと伝えると、ビニールを破いて中の焼き菓子を犬へ差し出しました。

そっと手からケーキを加え尻尾を振っておいしそうに食べる姿にはとても癒されました。

不器用に物乞いをする人も時折目にしましたが、この町では人間よりもうまく人間の心をくすぐるのは犬たちでした。

女性の路上生活は性被害なども含めて心配になることが多いのですが、身体の大きな犬たちとの暮らしが心の支え、そしてプロテクトに役立っているのかもしれません。

まさに人間と犬との共存共栄、生活の支えと心の支えの織り成す姿のように感じました。