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夏の終わりの漢方ケア


「夏の終わりの漢方ケア」
                      五野由佳理

 今年の夏は猛暑日が記録的に続きました。
 もともと冷房が苦手で、弱冷房車を選んで乗っていた私が、今年はさすがに弱冷房車を避けて普通車両に乗っていました。
 通院されている冷え症の患者さんでも夜は冷房をかけて寝ていると言われていました。「地球沸騰化」とWHOが警告を出すほど、日本だけでなく世界中の夏が異常な暑さでした。

 そろそろ秋の涼しさが待ち遠しいですが、東洋医学では、季節の変わり目を「土用」と言います。夏の土用の丑の日に鰻を食べると言いますね。
 夏から秋への変わり目の「夏の土用」のことを「長夏」とも言います。
 この時期は陽から陰へ移り変わる時期であり、胃腸の働きが乱れ、体調を崩しやすく、怠さも出やすくなります。

 この夏は、例年よりもアイスクリームやビールの消費が増えたのではないでしょうか。暑い時期、冷たいものは体の熱を冷ましますし、のど越しもいいですよね。ただ、多く摂取しすぎると、夏から秋へ移行する今の時期は、胃腸の働きが落ちて、身体に余分な水分も溜りやすく、怠さも出てきます。  
 そのような場合、漢方では胃腸を温め、お腹の動きを調整する薬があります。
 一つは胃を温めて動きを良くする「人参湯」です。滋養強壮作用があり、食欲不振に用いる「人参」が入っています。
 もう一つは、腸を温めて下痢を防ぐ「真武湯」です。温め効果をもつ「附子」が入っています。
 これらを同時に服用する場合もあります。他にも、気力を上げて、胃腸を調整する「黄耆建中湯」があります。

 次に、冷房に当たり過ぎて体調を崩してしまった人もいらっしゃると思いますが、冷房のない江戸時代にも冷たい風に当たり過ぎないようにしなさい!と健康本に書いてあるのです。
 これは、貝原益軒が記した『養生訓』に、

「夏は、汗が出て毛穴が大いに開くため、外(がい)邪(じゃ)(外から来る病気の原因)が侵入しやすい。涼風に長く当たってはいけない。」

「夏に開いた皮膚はそのままで、腠(そう)理(り)(毛穴のようなもの、皮膚のバリアー)がまだ閉じていない。秋風に吹かれると皮膚は感じて傷つきやすい。用心して、涼風に当たりすぎないように心がけなければならない。」

 というように、夏でも秋でも涼しい風には当たり過ぎないようにと忠告されています。
 もし、体に冷たい風が当たり具合が悪くなったら、「桂枝湯」という風邪の初期に使う薬を早めに服用することをお勧めします。
 シナモンが入っている美味しい薬です。また、暑いからと言って、シャワーばかりで湯舟につからない人が最近多くなっている印象ですが、寝る前に、冷房で冷えた体を温め、しっかりと汗をかいて、布団に入り睡眠を十分にとることをお勧めします。

 夏の終わりに、体のバランスを戻しながら、木々が色付き、食べ物も美味しい秋への準備をしてみてはいかがでしょうか。