漢方と膣トラブル ~ 文:漢方専門医 五野由佳理
漢方外来には、多くの女性の患者さんが来られます。中には、婦人科へ行く勇気がなく、まずは漢方外来へ受診されることも多いです。特に膣トラブルや、陰部の症状については話しづらいものです。
おりものが多い、陰部が痒い、ヒリヒリ感など症状がある場合、生理用品や下着との接触による問題があることもありますが、カンジダ、トリコモナス、クラミジア、ヘルペスなどの性感染症や細菌による感染症を考える必要もあります。
感染症の場合には、産婦人科による的確な早期治療が必要です。ただ、そのような治療を行っても、なかなか症状が軽減しなかったり、再発を繰り返す場合に漢方薬を選択して良い結果につながることがあります。
◎漢方で診る症状
陰部の痒みが強く、臭いがあるおりものが見られるときは、漢方医学的には「体内に熱がある状態」と捉えて、特に下半身の熱を冷ます「竜胆瀉(りゅうたんしゃ)肝(かん)湯(とう)」という薬を使います。
また、洗浄液として「苦参(くじん)」や「蛇(じゃ)床子(しょうし)」の入った液を用いることもあります。ときに、外陰部にあるバルトリン腺という分泌腺が腫れたり炎症を起こしたりすると痛みを引き起こします。抗菌薬治療や穿刺の治療をしても繰り返すようであれば、「排膿散及(はいのうさんきゅう)湯(とう)」などを用います。
膣炎を繰り返し起こしてしまう要因の一つとして免疫力の低下がありますが、このような場合に「十全(じゅうぜん)大補(だいほ)湯(とう)」という薬を使います。実際に、再発を繰り返すカンジダ膣炎の患者さんに良かった例があります。
◎年齢による症状
更年期に入って女性ホルモンが低下してくると、膣の粘膜も薄くなり、分泌物も低下し萎縮性膣炎を呈することがあります。陰部がヒリヒリしたり、違和感や、ときに痛みや出血がみられます。
そのような時は、粘膜を潤す作用を持つ「温(うん)経(けい)湯(とう)」という薬を使います。ある患者さんでは、ヒリヒリ感や出血が治まっただけではなく、顔色も良くなったと周りから言われるようになったと喜んで報告してくれました。
◎筋肉低下による症状
年齢がすすんでくると、骨盤底筋が緩んできて、子宮脱や膣脱が現れることがあります。立つと陰部に違和感があったり、特に腹圧をかけると顕著になることが多いです。
骨盤底筋体操に加え、升提(しょうてい)作用(引き上げる作用)があると言われている「補中(ほちゅう)益(えっ)気(き)湯(とう)」を使うことがありますが、下垂の程度が強く長期になる場合には手術が選択されます。
中には、ストレスが原因となって膣や陰部の違和感や痛みを感じる方もいます。そのような時には、神経をリラックスさせる漢方薬を色々と選択します。
基本的には、毎日清潔に保つことですが、強く洗浄したり、過剰にウォシュレットにあたっていると逆効果になることもありますので、やさしく洗浄し、生理用品は肌に合うものを細目に交換することを心掛けて下さい。